スキップしてメイン コンテンツに移動

マスタリング・パッシブEQ SPL-Passeq について mookmook radio#28

ここ最近の仕事は、海外とアグレッシブにやり取りが出来、非常に充実しています。先週ハリウッドに納品した音源は、マーティン・メレニーという、ポール・マッカートニーのウィングスを手掛けるミキシングエンジニアと共作できました。彼がミキシング・僕がマスタリングという具合ですが、実は当初クライアントとは、僕がミキシング・マスタリング双方を行う話し合いになっていたのですが、僕が提出した参考音源がクライアントの感性と異なったようで、ミキシングはクビになりマスタリングのみという依頼になった経緯があります。まあそこは世界のハリウッド、少しでもスキががあれば幾らでもいる世界中の優秀なプロデューサーやエンジニアに取って代わられます。悔しくて2日間眠れませんでしたが、これも経験ということで、悔しさをバネに善しと捉えようと、今は気持ちを切り替えています。ちなみに、そんな悔しい思いをしてはいますが、マーティンとはすっかり仲良し。今回実力では押し負けてしまいましたが、プライベートでは言いっ子なし、力が物を言うので、これが欧米流という感じです。
「次のコンペでは、マーティンに絶対に負けないぞ」と、心を新たにしています。
(マーティンのミキシングは、流石に上手でしたが(笑))

さて、今回はマスタリングギアの中でも、かなりコアなパッシブEQについてお話してみました。僕が今現在使用しているパッシブEQは、SPL Passeq と IGS Rubber band ですが、双方ともに非常に主張の強い機材です。その中でも今回は、SPL Passeqにスポットを当てています。それでは、早速探って行きましょう。

サウンドディスカッション #28
http://sound-monogatari.mookmookradio.com/podcast/28/



ラジオだけでは伝わらない機材の外観です。導入事例は日本では殆ど聞いたことがありませんし、ヨーロッパでもそこまで積極的に導入という雰囲気はありません。しかし、使ってみた者だけが分かる、この素晴らしい質感。。。番組内でも述べたのですが、一度この機材をデモしたことがあるのですが、正直なところその機能というか全般的な思想を理解できていなく、敢え無く撃沈した記憶があります(笑)。分かっていないって怖いです・・・ここまで素晴らしい機材を、当時はスルーしてしまったのですから・・・
それで、この機材の魅力ですが、まずその設計思想もさることながら、120vテクノロジーで作動している所が魅力の一つとして掲げられるかと思います。SPLのこのテクノロジーは、150dBを超えるダイナミックレンジや、ハイレゾに対応した周波数帯を網羅しているということ以上に、通常の44.1kHz 16Bitでマスタリングしても、スーパークリーンなサウンドに仕上げられる所が、最も魅力的だと今現在は思っています(将来変わる可能性あり)。プラグインは、Brainworxからリリースされていますので、一応の考え方を触れることは出来ますが、まあ、プラグインはプラグイン止まりの部分があります。少しのお化粧は出来るのですが、ハードギアのような劇的な変化は期待できません。
それはさておき、Passeqのもう一つの魅力といえば、中央部に鎮座する中央帯の周波数をBoost Cutできる機能です。通常のパッシブEQは、低音・高音のみにBoost Cutが存在するのですが、このPasseqは中央帯域にもその機能が付いています。僕が知る中では、中央帯域に対応しているのは、この機材くらいでしょうし、その設計思想そのものが真新しさを感じさせます。流石世界をリードするSPL・・・エンドサーということを抜きにしても、この機材の魅力は大きいと思いますし、昨今のグローバルスタンダードのマスタリングを考えれば、必然的に必要とされる機能かと感じています。
そしてそして、僕が感じた欧米のマスタリングを考える時に、1つの大きなヒントを与えてもらえたと思う機能です。それが中央に鎮座する、大きな-dBノブです。+はありません。-のみです。ボリュームを差し引くことしか出来ません。これは何を意味しているのか・・・EQで総合的な音量がBoostされてしまうことが前提というわけです。
僕も参加している、世界中のプロデューサー・エンジニアが集うFacebookの掲示板があります。そこに「Let us show your Equlizer」と書いてあることがよく有ります。しかし、「Let us show your compressor」という書き込みは、一度も見たことがありません。そして、多数のコメントと写真が添えられ、100以上のスレッドが付くことでお互いの情報を交換しています。(国は正にヨーロッパ大陸全般からアメリカ、アジアまで様々なのですが、日本人は僕だけのようです。。。)
それほどに、EQでの音作りというものを重要視しており、どのEQをどれ程に使いこなすのかを音作りの基本としているのかを感じさせられます。なので、Passeqの-dBは10dB以上のBoostがありえることを前提に設計されているのだと思います。よく話すことですが、「音圧はハードギアでまともな音作りをすれば、自然に上がってしまいますから、無理にプラグインで上げていくものはない」ということです。日本と欧米では、音作りに置ける考え方の根本が間逆ですから、僕もどちらが正解なのか悩みましたが、結局のところグローバルスタンダードを考慮したときには、自ずと答えは見いだせたという感じです。


Hiro's Mixing & Mastering / http://www.hirotoshi-furuya.com/shop
(ミキシング・マスタリング、こちらからご依頼ください。)
Official Website / http://www.hirotoshi-furuya.com
(お仕事のご依頼や、機材のお問い合わせは、オフィシャルサイトよりお願いします。)
Official Facebook Page / https://www.facebook.com/hirotoshifuruya.official/
Radio Personality『マエストロ古屋博敏のサウンド物語』/ http://mookmookradio.com/a0004/
Office / http://www.for-artist.com/mixing-mastering/mastering_top.html
(ご質問、ご相談などコメントから投稿下さい。番組内でお答えします。)

コメント

  1. このコメントは投稿者によって削除されました。

    返信削除

コメントを投稿

このブログの人気の投稿

日本で230vの運用について

電源において200vは簡単に引くことのできる国内ですが、ヨーロッパ製が大多数を占めるスタジオ機材においては230vがメインのため、電圧が足りない状況に陥ります。故に200vを減圧して115vで使用するケースが殆どと言え、この200vをなんとかして230vで運用してみたいと思った方は多いはずです。 もっとも僕もその一人で、アメリカで聴くサウンドとヨーロッパで聴くサウンドの違いというものは、双方の国に行くたびに感じていたことでした。勿論考え方が根本的に異なる両者ですので、違いが出て当然なのですが、機材の違いでもなく録られる音質の違いでもなく、何か本当に根っこの部分でヨーロッパとアメリカの違いというものを感じていました。僕も手っ取り早いので、115vは直ぐ様導入して100vとは異なる音質を手に入れることはできていました。 ここで電源やケーブル、タップ類の話になる前提として、絶対的に根本的な考え方が根底で出来ていること、そして自らの耳を常に疑われる、非常にレベルの高いクライアントたちから、ガンガンにクレームを言われながら鍛え上げられている柔軟な感性を持ち合わせていること、そして世界中の新曲に触れる機会に恵まれていることが絶対条件になります。自で 『 自分の作る音ならば間違いない、俺の価値観は絶対だ』 と思ったり考えているのであれば、その人は決して上に突き抜けることはありません。その考え方で、どうにかなってしまうクライアントしか仕事を受けられないからです。最高レベルに行き着くこともなく、成長はそこで止まります。適正な報酬、最高レベルでの感性と技術を売り込めば、それなりに自らの感性にも技術にも自信のあるクライアントからオファーを貰うことになります。そしてガチンコで意見を出し合いながら音を構築していくわけで、その場では必ず意見の衝突が起きます。その衝突を糧としながら、自らの感性や視野を育てていくことになり、そうしたクライアントと年に10人も出逢えばかなり揉まれます。自らの価値観など無に等しいくらいに否定され、揉みに揉まれて最後に残った価値観こそが自らのものとして最終的に残ることになるでしょう。また痛いのは、海外からのオーダーで、言語が全くわからない曲があったりします。例えばドイツ語やイタリア語、スロバキア語やウルド語(インド・パキスタン周辺の公用語・・・なのかな)が用いら...

elysia / xpressor, nvelope, xfiter, karakter レビュー

elysia導入。その① 近年の音楽制作において、様々な模索をし膨大な時間と労力をスタジオワークに注いできた。演奏家として自らのスタイルを確立していく中で、追い求めるサウンドの理想はしっかりと見えていながら、中々先行きの見えない手探り状態が長く続いた。その理由の一つとして、自らが求めるサウンド感が日本国内には存在していなかったこと、そしてその実現に向けて世界に目を向けたところで、膨大な量の情報が集まる中での模索は困難を極めた。 『著名な欧米人エンジニアに仕事を頼んだが、自らのプロフィール写真はアウトボードばかり写っているが、実際のところはプラグインが相当量使用されていた。』 などの情報も混在し、メジャーどころのプラグインは一通り試してみた。しかし一聴すると良いと思えるものも、突き詰めれば突き詰めるほどに、またハイレゾリューション・オーディオを意識したサウンド感を生み出そうとすればするほど、必ずと言って良いほど、完成した音源は破綻をきたしていた。滑らかに曲線を描くはずであった弦楽器の音色は、デジタル処理されたプラグインにスポイルされ立体感を失い、幾通りにも重ねられたプラグインは、拘りこそ感じられるが最終的な理想とする仕上がりには程遠い。一体何がこうさせているのかを模索しても、デジタル処理の限界を超えられることはなく、特に奥行きと幅を求められるアコースティック楽器を主流とした音作りには工面させられた。何百時間、何千時間とスタジオで音色を求めようとも、回答は結局のところ得られなかった。 しかし、転機が驚くところで与えられた。 文化庁からの招聘で、学校コンサートを依頼された折、校歌を歌って欲しいとのことでCDを渡された。 『ICレコーダーか何かで録ったのかな・・・』 という程度に受け止めていたが、仕事に向かう道中カーステレオから流れてきたその校歌に驚かされた。内容としてはシンセサイザーの打ち込みとコーラスで構成されていたが、明らかに幅と奥行きが存在していた。自らが持ち合わせていた先入観に等しい、『学校の校歌にそこまでの予算をかけることはないだろう』という考えがサウンド側から覆され、校歌というシンプルな音楽の上に立った時、それがコンソール経由で制作されたことがクレジットからも読み取れ、またその校歌自体はSSLやNeveほど高価なコンソールを使用していない...

SPL Channel One Mk3レビュー

以前にデモ動画を担当させて頂いた、 Channel One Mk3 について触れてみたいと思います。この動画は国際エンドーサーのデモとしてSPLの本国でも採用されているのですが、サクッと撮影してしまいましたので、画角など課題も多いですが、アマチュア感溢れる動画にどうかお優しい目線で見て頂けると幸いです。 さて、この機材としての所感として、孤高で最先端を行くSPLならではということで、先ずは非常に多彩であることは動画の通りです。真空管のOn/Offまで盛り込まれており、チャンネルストリップとしては限界とも言える機能の盛り込み方で、元々多彩なSPLの機材の臨界点を見たような気分です(笑)。各機能については、マニュアルと動画を併せ持たせて理解を進めて頂ければと思うのですが、恐らくは皆様何と言ってもこの機材の音に対しての所感を書いて欲しいところかと思います。 先ずChannel One Mk3は、120vが採用されていないというところが最も大きい特徴かと思います。120vの搭載/非搭載は、SPL社が『この機材をこういう音にしよう』という前提がかなり色濃く出るところでして、120vが採用されている機材は、良い意味でも悪い意味でもスーパークリーン、限界を超えるようなHi-Fiを求める方は是非120vを積んだ機材へ行っていただきたいと思います。それに比べ、120vモジュールを積んでいない機材に関しては、SPLならではのクリーンさと共に『かっちり感』『固まり感』というものが全面的に押し出されている感じがします。ここは本当に使い分けだと思いますので、理想は120vを積んでいるスーパークリーンの代名詞であり限界値とも言える Crecendo と、120vを積んでいない今回のChannel One Mk3双方に持ち合わせていることが楽曲制作により華を持たせてくれるかと思います。 今までの作品でも僕の場合は、この辺りの音色感で使う機材を決めていたというところがあります。 例えば、ジョン・キャペックを迎えて制作したエルトン・ジョンのYour Songを、エルトン・ジョンのドラマーとしても著名なチャック・サボを迎えて、実際にドラムを叩いてもらった作品があります。この時僕が使用したドラム向けのサミングミキサーは、 Mix Dream を使用しており、このMix Dreamには120vは採...