erysia導入。その②
前回のレビューより、大分時間が経過してしまった。
経過してしまったというよりは、スタジオが本格稼働するにあたり、関連機材の導入からセッティング、そして実際に音を出して、クライアントや僕自身の要求に即座に応えて貰うために必要な期間であった。色々と熟慮したが、elysiaの全ての機材はSSL XL-DESKのスロットにセットアップして使用することとした。XL-DESKは、SSL最新の機材ということもあり、近年のHi-Fiなハイサンプリングレートのサウンドを作り上げる意味では、正に適材と言える。バークリー音楽大学には、Dualityが存在しており、レコーディングセッションの課題が出た折には自由に使うことも出来る。日本国内に最も導入されている4000シリーズもさることながら、Dualityに至っても設計思想の古さを感じざるを得ないと再確認させられる。SSL標準搭載であるG-Compressorは、本国イギリスであろうとアメリカであろうと、今も神話的な扱いを受けているが、僕にはどうしても思想の古さを感じさせる。それは、チャンネルストリップのEQであれCompressorであれ、兎に角世界で現在最新とされる音源を制作するには、余り向いていないと肌身で感じるようになった。近年のHi-Fiと表現される世界のスタンダードは、単純に言えば楽器そのものの音色をダイレクトにレコーディングし、倍音から異音に至るまで、音色をそのままの状態で如何にクリアな形でパッキング出来るかが問われているように思える。バークリーのお陰で、アメリカ・イギリスは勿論、最近ではドイツやオーストリア、スウェーデンなどのスタジオとも付き合いが出始めた。彼らから送られてくる参考音源や、Facebook上で情報交換を行ううちに、彼らの作る音色は全く別次元にあること、加えて最近ではマスタリングスタジオが機材のメーカーとして販売までを手掛けるようになり始めた。欧米のエンジニア達は、基本スタンスが日本とは全く異なる。自らが演奏家であることが殆どであり、プロとして音楽経験のない者がレコーディングセッションを纏めることは余りない。自ら演奏をするのだから、楽器の音は最も身近な形で知っているだろうし、その後のレコーディングされた楽曲をミックスやマスタリングで纏めていくにしても、演奏している楽器の音を間近で知っている人間だからこその音作りが存在している。これは、卵が先か鶏が先かというほどの違いが存在しており、演奏家自らが運営するスタジオで企画・製造する機材となると、設計思想としては正統派であると定義できる。
例えば、オーストリアのマスタリングスタジオからは、素晴らしいマイクのプレゼンテーションを受けたし、ドイツのスタジオからもとびきり素晴らしいマスタリングEQのプレゼンを受けた。日本には勿論未入荷であろうし、そもそもがプライベートメーカーだ。しかもかなり高価ではあるが、近日中に導入する予定である。保証の面でもままならないことは承知だが、そのリスクを背負ってでも導入する価値のある機材であると思える。また、最近の欧米メーカーは、日本以上にサポートの良いところも多く、納入実績などを見れば自ずと安心のうちに導入に踏み切れる。これらの状況を考えるに、これまで大手を奮ってきた伝統あるメーカーが、新興勢力に太刀打ちするには少し厳しい状況に置かれているようにも思える。時代は確実に進んでおり、その歩み具合はグローバルの見地で捉えた場合、物凄いスピードである。ポーランドのBettermakerなどもその良い例だと思うが、サウンドの先進性といい音色の扱い方といい、ハードギアとプラグインを同居させる考え方など、兎に角別次元に挑んでいると思える。
そんな世界の最新情報とサウンドに触れる機会を多数与えられていても、一際輝き続きけるのがelysiaだと思える。特にSSLにインストールしてからの輝きは素晴らしい。話が余りにてんこ盛りになりすぎてしまうので、先ずはX-Pressor(Compressor)に触れてみたいと思う。先ずこの機材を通すだけで、モダンサウンドに変化してくれる。それはSSLであろうとNEVE8816を通そうがelysiaのモダンサウンドは光り輝く。SSL XL-DESKを介してのelysiaは、正にHi-Fiの最たる姿と言えよう。当初はその素晴らしさに惚れ込んでしまい、X-Pressorのサウンドを100%活かし切っていたが、最近では第三者的にサウンドを捉えられる余裕が出てきてからは、パラレルコンプレッションを用いてelysiaのカラーを軽減する努力も行うようになった。そんなベタ惚れ状態ではあるが、特質するところとしては、兎に角無茶な突っ込み方をしても、決して音色が歪んだり解像度が下がることはない。あくまで歪の現象は、こちら側が意図して操作しない限りは、XL-DESKのサブミックスメーターがレッドに突っ込んでいても、お構い無しでクリアな音を奏で続ける。Warm Mode は暖かさを加えはするが、決して真空管を使用した機材とは明らかに異なる暖かさであり、 Log-Rel の機能はこれまた極上の音質でパンチを増し加えてくれる。また、通常使用するコンプレッサーとは異なる考え方をしている箇所や、機能がかなり充実しているために使用当初は各箇所の動作に対して慣れが必要になることは間違く、効き目も強く色合いも非常に濃い。ただ、一回このX-Pressorに慣れてしまうと、他の機材に求めるものが増えてしまい、名門メーカーの機材に対して心許無い感覚を持ってしまうこともある、完成度の非常に高い機材だと言える。
新興メーカーの勢いは強く、また躍進も素晴らしい。ドラマティックに、新たな時代を予見させる過度期に居ると実感させてくれる。ただ、日本の風土として真新しい機材を探し出し、それを聴き分けて導入する楽しみを排除する傾向にあるように思える。なので、これほど素晴らしい機材ではあっても、中々メジャーどころの扱いにならない起因ではないかと思える。結果どうなるか・・・ただでさえ日本で作られるサウンドは、世界から見れば遅れを取っている。そして新興勢力を好まない気質は、更に遅れを生じさせる。負の連鎖が続くこととなるので、少しでも多くの方に、ハードギアや新興メーカーの持ち合わせる魅力を知って頂きたく思う。
Official Website / http://www.hirotoshi-furuya.
(お仕事のご依頼や、機材のお問い合わせは、オフィシャルサイトよりお願いします。)
Official Facebook Page / https://www.facebook.com/
Radio Personality『マエストロ古屋博敏のサウンド物語』/ http://mookmookradio.com/a0004/
(ご質問、ご相談などコメントから投稿下さい。番組内でお答えします。)
コメント
コメントを投稿